一度会っただけなのに妙にインパクトを感じてしまって忘れ得ぬ人、そのような人に出会った経験はきっとあなたにもあることでしょう。
さて、今回のテーマは『チャコさん』です。実はこの方、某市にある有名なおかまバーのホステスさん(?)だったのですが、僕の記憶の中でも、その存在感、インパクト度共にナンバーワンであります。
話は10年ほど前にさかのぼります。仕事を終えて職場の先輩と仲間数人で街に飲みにいった時の事です。1次会を打ち上げてほろ酔い気分で2次会の会場を探している時に仲間の一人が『市内で結構有名で面白いオカマの店があるよ。』と教えてくれたのがチャコさんのいるお店だったのです。お酒を飲んでいなければ別の場所を選んでいたでしょうけど少々酔っていましたもんねえ。何の躊躇もなく2次会の会場はあっさりとそのお店に決まってしまいました。
言い出しっぺの同僚以外はこのお店(というよりおかまバー)は初めてだったし好奇心もあったせいでしょう、結構期待しつつお店に向かったのを覚えております。
そのお店は市内でも多くの飲み屋さんが連なる地区のとあるビルの2階にありました。お店に入るや否やいきなり化粧の濃い体格のよいチャイナドレスのおじさん、いやおかまちゃんの出迎えを受けました。『あーら、いらっしゃーい。ママー、お客さんよ−。』てな具合でソファに案内されましたわけです。確かその時はまだ客は僕らだけだったように記憶しとります。ウィスキーの水割りを飲みながら、おかまちゃんの絶妙なトークに一同大爆笑、楽しい時間を過ごしていたのです。
しかし、その雰囲気はある会社帰りの常連の若者集団の来店により一変します。最初は僕らと同じような雰囲気で楽しそうにお酒を飲んでいたようですが、いきなりBGMが変わってラテン系の音楽が流れ、赤い照明が点滅したと思ったら、彼らのテンションはとうとう頂点に達し頭がイッてしまったようです。いきなり一人の若者が立ち上がって上着、ズボンを脱いでトランクス一丁の姿になったと思うと、同僚とおかまちゃんが彼のトランクスをいきなりビリビリと破り出したのです。するとその若者は逆襲に転じておかまちゃんの股間に噛み付き、おかまちゃんの嬉しそうな悲鳴が店内に響き渡りました。今度はおかまちゃんの助っ人がやって来て、若者集団の金潰し(タマを強く握ることデス。)にかかって店内は騒然としてきました。僕らが呆然として見ていると僕のとなりに座ってたおかまちゃんが一言、『あら驚いた?こんなことしょっちゅうよ。』だって。
僕らに飛び火がなかったのは幸いでした。すると今度はいきなりBGMが官能的なブルース調になってチークタイムになったのだあ。あれだけ騒がしかった店内が静まり返り、おかまちゃんの態度が妖しくなる。僕の先輩は見かけがダンディ−だったのでおかまちゃんにモテモテで、とうとう一人のおかまちゃんに唇を奪われてしまった。(妻子あり。)そんな光景を仲間とゲラゲラ笑いながら見ていた僕にいよいよチャコさんとの出合いの瞬間が迫っていた。
今まで僕の隣にいたおかまちゃんはいつの間にかいなくなっていて、いつの間にか別のおかまちゃんに入れ替わっていた。そして僕は一瞬たじろいだのであります。彼(彼女?)は今まで話して来たおかまちゃんとはちょっと違っていたのだー。長い髪を後ろに束ね、化粧はバリバリに濃くて顔は真っ白。真っ青なアイシャドウの中の目は小さくて、真っ赤な唇が異様に大きく見え、がっちりと体格が良く、歳のせいか、はたまた苦労のせいか髪の毛には白いものも混ざっていた。『こんばんはー。チャコですー。』
そしてとうとう僕は強引にチークダンスに引っ張り出されてしまったよ。踊っているのは僕とチャコさんのペアーだけ。同僚は皆、僕の姿を見て大爆笑さ。どうもこのお店ではチャコさんがトランプでいうところのジョーカーらしい。
そしてチャコさんが僕の耳もとで囁く。『あなた、いい体してるわね。もっと体をあたしに近づけて。 』おえー。『今度いつ来てくれるの?』おえー。『だめ、もっと腰を動かすの。』おえーーーっ!
チャコさんの甘いささやきと強烈な香水の匂いにむせそうになった次の瞬間、とうとうトホホなクライマックスがやってまいりました。チャコさんは僕の股間に自分の股間をぐりぐりと押し付けて来たのであります。
このときの感触をあえて擬態語で表現いたしましょう。適当な表現は見つかりませんが、『ぐにゅっ』て感じかしらん。チャコさん、しっかりタマはつけておったよ。僕は軽い吐き気と戦いつつ、そして腰を引きつつも地獄のチークタイムを見事に果たしたわけであります。踊り終えると拍手喝采でありました。ちぇっ、ちっとも嬉しくねえ。
御丁寧にもチャコさんは帰り間際に僕に名刺をくれました。それにはプライベートの電話番号と彼が部屋にいる時間が書いてあったけど、とうとう電話することはなかったなあ。それとお店にもその時以来行っていない。
この青空の下、どこかでチャコさんが幸せにそしてお元気に過ごされていることを祈りつつこの度は筆を置かせていただきます。御拝読ありがとう存じます。