平成19年11月号
無症候性(むしょうこうせい)脳こうそく
あなたは無症候性脳こうそくという病名をご存じですか? 脳こうそくとは脳血管の一部がつまったり、部分的に脳の血のめぐりが悪くなるために脳にキズがついてしまった結果、マヒやしびれ、呂律(ろれつ)が回らなくなるなどの症状を長く残してしまう病気です。最近、健康ブームの流行のためでしょうか、脳の検査をおこなう方が次第に増えてきていますが、その方々の中にはマヒやしびれなどの症状が全くないのにもかかわらず、小さな脳こうそくが見つかるケースが非常に多くなっています。
そのような場合、外見は健康でとても元気に見えるものですが、検査の上では脳こうそくという病気を持っていることになります。このように症状のない脳こうそくは「無症候性脳こうそく」と呼ばれるようになりました。いろいろ調べてみますと、その頻度は六十五歳以上の健常者でなんと3〜4割(十人中三〜四人)にのぼるといわれています。
さらに最近の研究では、無症候性脳こうそくを持っている方は、その後の様子を長く見ていると無症候性脳こうそくを持っていない方と比較して、症状をともなう脳こうそくの発病率が格段に高くなっており、注意すべきだと考えられるようになりました。加えて、無症候性脳こうそくの患者さんは将来において認知症やうつ病を起こしやすいこともよく言われています。
わが国において、寝たきりの原因となる病気の第一位は脳卒中です。したがいまして当外来では今後、脳卒中(脳出血と脳こうそく)の予防にいっそう力を入れていこうと考えております。特に脳こうそくに関して言いますと、血管の老化(動脈硬化)の進み具合と不整脈のあるなしが問題になります。身内の方に血管の異常が原因で起こる病気、例えば脳出血、脳こうそく、くも膜下出血、心筋こうそくなどにおかかりになった方がいらっしゃる場合、以前にご自分が肥満・高血圧・糖尿病・高コレステロール血症の指摘を受けておられる場合、動悸がしたり、すでに不整脈の診断を受けておられる場合などは十分に注意が必要です。
無症候性脳こうそくは痛みを伴ない検査で簡単に見つかります。多くの病院ではCT検査とMRI検査を実施しています。CT検査はレントゲンを用いた一般的な検査で、MRIではさらにくわしく脳を調べることができます。たとえば、脳の中にあるごく小さい病気の発見、血管のこぶ(動脈瘤:どうみゃくりゅう)の発見、首の血管(頚動脈:けいどうみゃく)にある異常などの発見ができます。くわしくはお近くの病院までお気軽におたずねください。
平成19年10月号
感冒(かんぼう)症候群について
今回は感冒症候群(俗にいう「かぜ」)についてお話します。感染症を起こす代表的な原因に細菌とウイルスがありますが、その違いをご存知ですか? 実は大きな違いが2つありまして、「大きさ」と「増え方」に特徴があります。大きさについていえば、細菌の方がウイルスよりも何十〜何百倍もあります。細菌は自分で増殖できますが、ウイルスは他の生物の細胞の中でしか増殖できません。感冒症候群の原因のほとんどがウイルスであることがわかっています。
ご存知かもしれませんが、感冒症候群の症状を記してみます。なんとなく体がだるい、寒けがする、のどや鼻に乾いた感じがする、このような症状が一日ほど続き、やがて本格的にのどが痛くなり、鼻水が出たり、鼻がつまったりという状態になります。たいていはこのまま治ってしまいますが、時にはせきやたんが出たりするようになります。これは炎症が上気道(鼻やのど)から下気道(気管支)のほうに進んだことによります。また発熱や頭痛、嘔吐や下痢といったおなかの症状が出ることもあります。冬場に問題となるインフルエンザウイルスも当然、感冒症候群の原因になります。この場合には高熱、頭痛や筋肉痛などの全身症状のほかに、肺炎などの重い病気になることがあります。
比較的体力がある方の場合、感冒症候群は特別な治療をしなくても数日で治ることがほとんどです。しかし、体調が悪かったり、気管支に慢性の病気を持っていたり、免疫(病原体をやっつける力)を低下させる薬を飲んでいたりすると症状の悪化を見ることがあります。時にウイルスの感染と細菌の感染を同時に引き起こすことがありますので、症状の程度には注意が必要です。
もう一つ付け加えなくてはいけません。感冒症候群の原因となるウイルスの中には心臓の筋肉を痛めるものもあるのです。その頻度は低いとされていますが、症状が消失して数週間後に動悸や息切れで気づかれることがあります。
それでは治療の話になります。感冒症候群の治療の原則は、安静、保温、栄養の3つといわれています。ウイルスには抗生物質が効きませんから(細菌感染であれば効果があります)、結局は自分の体力が頼みです。とにかく無理をせず、身体を冷やさず、普段通りにきちんと3食をとることが大切と言えるでしょう。ついでに食事に関してですが、感冒症候群にかかってしまった時にはたいてい胃腸の働きがにぶっているものです。したがって、いくら身体のためとはいえ、無理していつもより多めに食べることは難しいのではないかと思います。食事量ではなく食事内容(栄養のバランス)を重視してください。また、水分を十分にとることも大切ですね。
平成19年9月号
介護保険
介護保険は健康保険や年金保険に続く第三の社会保険と言われています。この保険の目的は「介護が必要な高齢者及びその家族を支援すること」であり、平成12年4月から施行されました。
介護保険ができるまでは、全額公費負担の「老人福祉」と健康保険の一部としての「老人保健」でまかなわれていました。しかし、今後高齢者の数が急激に増えていきますと、家庭に介護者がいなくなったり(いわゆる独居状態)、いたとしても介護者自身が高齢者となってしまうため、従来の制度では対応できなくなることが予想され、以上を踏まえて介護保険が生まれたわけです。
介護保険は、年齢40歳以上の国民がすべて加入し、保険料を納付します。65歳以上の高齢者は「第1号被保険者」となり、保険料は市町村が徴収します。40歳から65歳未満の方は「第2号被保険者」となり、医療保険料とあわせて介護保険料が徴収されます。なお、第2号被保険者の奥さまでご主人の扶養者になられている方は、ご主人の保険料に含まれるために個別に支払う必要はありません。
65歳以上の第1号被保険者は65歳以上の第1号被保険者は、原因のいかんを問わず要介護の状態になったときに介護サービスが受けられます。40歳から64歳までの第2号被保険者は、特定の病気で要介護状態になった場合のみ介護サービスを受けられます。
1)初老期における認知症 2)脳血管疾患 3)筋萎縮性側索硬化症 4)パーキンソン病及び類縁疾患 5)脊髄小脳変性症 6)多系統萎縮症 7)糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害 8)閉鎖性動脈硬化症 9)慢性閉塞性肺疾患 10)両側の膝関節又は股関節の著しい変性を伴う変形性関節症 11)慢性関節リウマチ 12)後縦靱帯骨化症 13)脊柱管狭窄症 14)骨折を伴う骨粗しょう症 15)早老症(ウエルナー症候群)16)末期がん
介護保険では、介護の必要な人の心身の状況に応じて給付される額が定められています。この心身の状態を数値化したのが「要介護度」と言われるものです。具体的には「要支援」から「要介護5」まで分けられます。この要介護度に応じて具体的なサービスのランクが決まります。つまり、自分がどの要介護度に認定されるかというのはとても重要なのです。
要介護認定の申請は市区町村の窓口にて行います。本人や家族が申請に行けないときには、地域包括支援センター等に代行を依頼することもできます。
要介護認定の申請を行うと「介護認定調査員」という人が家庭を訪問して、心身等の状態について聞き取り調査をします。(調査票に基づいて82項目について調査されます。)
市区町村は訪問調査と同時に、申請者のかかりつけの医師等に意見書の提出を求めます。その後、訪問調査の結果をコンピューター処理した一時判定の結果と医師の意見書が、市区町村長が任命した「介護認定審査会」に送られて審査されます。これが「2次判定」と呼ばれ、これによって「要支援1」から「要介護度5」までのどのランクに該当するかが決定されるのです。市区町村長は、この介護認定審査会の決定に基づいて要介護度の認定を行い、「被保険者証」に記入して本人に通知します。申請からこの要介護度の認定までの期間は30日以内とされています。
要介護度の認定は原則として6ヶ月ごとに更新され、その都度判定を行います。また、6ヶ月たたないうちでも状況が変化したとき、「再申請」を行えば要介護度の見直しをしてもらうことができます。
平成19年8月号
もの忘れについて
私のグチを聞いてください。実はですね、どうも最近忘れっぽくなってしまって、日常で困る場面がよくあるのです。くすりの処方は医者の大切な仕事のひとつですが、時にそのくすりの名前がなかなか思い出せないのです。「それではおくすりをお出ししますね。え〜と、あれあれ。あのくすり。何だったっけ。いつも出しているのにな・・・」 ほかにも人の名前を忘れたり、最近読んだ本のタイトルを忘れたり...。私が若い頃にはなかったことです。(ため息)
そもそも「記憶」には3つの段階があるとされています。まず1つめ。その瞬間に「覚える」ということ。例えば、親戚からの電話、ご近所の方に不幸、明日会う約束、テレビのニュースなど。見聞きしたことを頭の中に刻みこむ作業です。次に必要な作業は、今、覚えたことをしっかり「保つ」こと。わかりやすく言えば、覚えたことを頭の中にある「記憶の引き出し」に整理し、なくさずにキチンとしまっておくことです。これが上手にできないと、せっかく覚えたことが無駄になってしまいますね。さて最後の段階です。必要なときに「記憶の引き出し」にしまったものを間違いなく取り出すこと。午前中に親戚からきた電話の内容を家族に伝える、ご近所の方の不幸を町内会長さんに連絡する、明日人に会う約束をあとからメモ帳に記す、テレビのニュースの内容を夕食を食べながら話す、などなど。結局ですね、「もの忘れ」とはこれら3つの段階のいずれかがうまくいかないのです。ですから、先ほどくすりの名前が思いつかなかった私の場合では、3つめの段階、すなわち、頭の中にある記憶の引き出しにしまっておいたくすりの名前を取り出すことに失敗しているのです。「先生、あのくすりは○○ですよ」と看護師さんに言われ、「ああ、そうだった!」恥ずかしいやら悲しいやら・・・。
もの忘れには心配のないものと、ちょっとだけ心配したほうがよいものがあります。私の場合は良性のもの忘れで、心配いらないタイプです。思い出したときに「ああ、そうだ」と感じる場合は大丈夫。ちょっと心配したほうがよいケースは、せっかく覚えて頭の中にある記憶の引き出しにしまっておいたはずのものが、いつの間にか消えてしまうパターンです。この場合、最近の出来事や体験したことを忘れてしまいます。ただし、自分にとってあまり大切ではないことは忘れることが当たり前ですので正常です。また、もの忘れを自覚している間はそれほど心配するには及びません。 高齢化社会にともない認知症の方の総数は増えているようです。平成二年のデータによりますと、その頻度は六十五歳以降で百人に二〜三人、七十歳以降で百人に三〜四人、七十五歳以降で百人に七人、八十歳を超えますと六〜七人に一人と次第に増えていきます。記憶の検査はたいていの病院で実施可能です。もしご心配ならお気軽に相談されてみてはいかがでしょうか。
平成19年7月号
手洗いができていますか?
「手洗いとうがいを毎日ちゃんとしてくださいね」と私は外来で口ぐせのように言っています。手洗いとうがいの習慣は感冒症候群(かぜ)予防のためのみならず、手軽にできる健康維持法にもなると思います。実は手洗いにはキチンとしたやり方があるのですが、案外ご存じない方が多いのではないでしょうか。今回は正しい手洗いの仕方をテーマにお話ししようと思います。
私が医学生の頃、手のひらにはどんな種類の細菌がいるのかを調べてみたことがありますが、その結果には大変に驚かされました。一見すると、汚れもなくきれいに見える手ですが、実にさまざまな種類の細菌が住みついていることがわかったのです。(時にはウイルスもくっついているようです。)その細菌のすべてが病気を引き起こすタイプというわけではないのですが、学生なりに手洗いの習慣の大切さが身にしみたものでした。
ではこのような細菌やウイルスを洗い流すにはどのような手洗いが大切なのか調べてみました。いろいろな本を調べてみたのですが、若干の違いはよしとして、その共通するところを書いてみることにしましょう。(そうそう、手洗いのタイミングは基本的に、外から帰宅した時、食事の前、トイレの後の三つになりますので、覚えておいて下さい。)
1.まず手をよく水でぬらして石けんを泡立てる。2.5秒間両手の手のひらを力強くゴシゴシとこする。3.片方の手の甲をもう片方の手のひらで5秒間力強くゴシゴシとこする。(反対側も同様に5秒間)4.そのままの状態で両手の指を組み合わせて、指の付け根をこする。(5秒間)5.片方の手のひらにもう片方の指先をつけて、5秒間輪をえがくようにこする。(反対側も同じように5秒間)6.実は親指のつけ根、手の甲側が一番汚れが残りやすい所なのだそうです。親指を片方の手のひらに包み込んでゴシゴシこする。(これも5秒間。反対側も同じように)7.まだまだ終わりません。最後に手首をつかんで、5秒間ゴシゴシまわす。(反対側も同じように5秒間)8.最後に十分に水ですすいで、せっけんの泡を流し落とします。9.清潔な(←これが大切!)タオル、あるいはハンカチで手をふきます。不潔なタオルはせっかく洗った手を再び汚してしまいます。
最後にもう一度、要点をまとめましょう。一、私たちの手はきれいに見えても、細菌やウイルスがついています。二、正しい手洗いによって、それらを洗い流すことができます。三、手洗いは感染症予防の第一歩、基本中の基本。
食中毒の季節です。めんどうに思わずに実践を!